他人の物を無断で持ち去っても、無罪になる理由を解説します
今回は、窃盗罪について、事例を用いながら解説します。
こういう場合、窃盗罪になるの?
以下のような場合、窃盗罪にあたるのでしょうか。
友人宅前で、友人の電動自転車を見かけた。その自転車に鍵がかかってないことに気がつき、乗ってみたかったので、その日中に返そうと思って乗り出して行った。
この事例が窃盗罪にあたるのか、条文から一つ一つ検討していきます。
窃盗罪の条文から検討してみましょう
窃盗罪についての条文は以下の通りです。
第二百三十五条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
《窃取》とは、所有者の意思に反して占有を移転することです。
《占有》とは、物に対する事実上の支配をいいます。その物をコントロールできる状況のことです。
今回の事例に、上記の条文を当てはめると、友人の自転車を勝手に乗っていって、自分がコントロールできる状態にしているので、窃盗罪が成立しそうな印象を受けると思います。
犯罪の立証には主観的要素も検討が必要
しかし、結論として、今回の事例では、窃盗罪が成立しない可能性が高いです。
おおよそ犯罪が成立するには、客観的な要件に加えて、必ず主観的な要件も満たしている必要があります。
主観的な要素とは、『その時どう思っていたのか』『どういう意思を持っていたのか』という、内心の問題のことです。
別の例で考えてみます。
例えば、殴ろうとして殴って怪我を負わせたら傷害罪になります。この、『殴ろうとして』という部分が内心の問題です。
一方、肩がこるので肩を回したら、拳が他人の顔に当たって怪我を負わせてしまった、という場合、殴ろうとしたわけではありません。
暴行をくわえようという意思、認識がないのに他人に怪我を負わせてしまったという場合、過失(不注意)によって傷害を負わせた、《過失傷害》という評価になります。
このように、内心の問題は、犯罪の成立を審理したり、何の犯罪が成立するかを審理する上で重要な要素です。
今回の窃盗罪の場合も、上記で検討した客観的な事情に加えて、内心の要件も検討する必要があります。
窃盗罪は《不法領得の意思》の内心が必要
窃盗罪が成立するための内心の要件で必要なのは、《不法領得の意思》です。
不法領得の意思とは、権利者を排除して、自己の所有物として、その物の経済的用法に従って利用処分しようとする意思のことです。
今回の件に当てはめて考えてみると、『権利者を排除して、自己の所有物として』という部分が認定できない可能性が高いです。
自転車を乗って行った本人は、一次的に借りただけで、返すつもりなので、所有者である友人を排除して自分の所有物として使おうとしていたわけではないからです。
内心は客観的事実や証拠から推測する
窃盗罪に限らず、《内心の立証》というのは難しい問題です。
内心や意思は直接証明することができないので、客観的な証拠や事実から推認して立証することになります。
例えば、今回の事例で、友達の自転車が無くなってから3日後に、勝手に乗って行った人の家の駐輪場で、鍵付きで発見されたとします。
その状況で、「少し乗ったら返そうと思っていました」と言っても、説得力がありません。
3日間も支配し続けているし、返却しないで自分の駐輪場に置いているし、所有者の鍵ではなくて自分で買ってきた別の鍵つけている。
このような状況下だと、いくら、『返そうと思っていた』と内心を主張しても、『権利者を排除して、自己の所有物として』利用していたという認定になりやすくなります。
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